ハエ目DIPTERAには多くの種類が含まれますが、ここで扱うハエ類とは、私たちの生活環境の中で発生し、昔から駆除の対象として一般に「ハエ」と呼ばれてきたもので、イエバエ類、ニクバエ類、クロバエ類、キンバエ類を指します。分類学的には、環縫亜目有弁類に属する大型の種類をここでは便宜上「ハエ類」(大型バエ)と呼ぶことにします。
「やれ打つな蝿が手をする足をする」(小林一茶)という俳句は有名ですが、これは身近にいるイエバエが前脚をすりあわせている動作を詠んだものです。「蝿」という漢字は、この様子を縄をなっている動作に見立てたことに由来しています。
イエバエ類には、最も一般的な種類であるイエバエとヒメイエバエなどがいます。イエバエは畜舎や鶏舎の敷きわらや糞、堆肥、厨芥が発生源となり、ゴミ処分場などから大量発生することもあります。地域によっては多数発生して公害になります。ヒメイエバエはイエバエより一回り小さく、軒下や室内を何匹かで輪を描くようにクルクル飛びまわる「輪舞」と呼ばれる習性があります。都市環境では、イエバエよりも一般的です。
ニクバエ類の代表種はセンチニクバエです。「センチ」は便所の意味で、人畜の糞、畜舎、動物の屍体などから発生し、肉も好みます。このハエは卵ではなく、直接ウジを産み落とすことが特徴です。
クロバエ類は、クロバエ科に属する大きくて黒色のハエで、体形も丸みをおびています。ケブカクロバエやオオクロバエ、ホホアカクロバエなどが代表的な種類です。平地では晩秋や初春によく見られ、人畜の糞、動物の屍体、厨芥などから発生します。
キンバエ類も同じくクロバエ科に属するハエですが、緑や青の金属光沢があるものの総称です。ヒロズキンバエ、ヒツジキンバエ、ミドリキンバエ、クロキンバエなどがあります。発生源はクロバエ類と同様です。
これらのハエ類は、食中毒菌をはじめ各種の病原菌を伝播することが知られ、衛生上、極めて重要な害虫です。イエバエは病原性大腸菌0-157を媒介することが知られています。またクロバエ類のオオクロバエおよびケブカクロバエから鳥インフルエンザ・ウイルスが検出されています。
成虫は周辺地域から飛来することも多く、その発生源自体をなくすことはできませんが、発生源が敷地内にある場合には、除去するか、幼虫対策としてIGR剤や有機リン剤を散布します。
成虫は、調理食品の匂い、発酵臭や腐敗臭に誘引されて飛来し、低温期には暖かいところに集まりますので、施設周辺の生ゴミなどは密閉性の良い蓋付きポリ容器などに入れ、1週間以上放置しないようにします。ゴミ置き場の清掃も大切です。
一般家庭では、ハエ叩き、エアゾール、粘着リボンなどで対処できます。甘い発酵臭で誘引して溺死させる仕組みのハエトリトラップは、屋内を飛び回るイエバエを効率良く捕獲できます。イエバエは屋外では誘虫ランプにほとんど誘引されませんが、照度の低い屋内ではある程度は誘殺されます。ニクバエ類やクロバエ類ではイエバエより強く誘引されますので、ライトトラップや電撃式殺虫装置も状況によっては有効です。
ハエが嫌がる植物精油成分を含有したハエ忌避剤を配置すると、その周囲にはハエがあまり寄ってきにくくなります。窓や出入り口は開放したままにせず、換気扇口や給排気口の状態も確認し、必要に応じて網戸や防虫ネットを取り付けます。清潔な環境が求められる飲食店や製造施設では、出入り口を二重ドアにしたり前室を設けると効果的で、防虫カーテンやノレンは屋内の区域間のハエの移動を妨げます。
よく集まる場所には、壁面などに殺虫剤を残留散布したり、蒸散性の殺虫プレートを吊り下げます。夜間は天井面に逆さに止まって休息する習性があるので、そのような場所にもエアゾールを吹き付けておきます。
専門業者に依頼してピレスロイド剤の自動噴霧装置や蒸散装置を設置すると、毎日、自動で防虫できます。